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三田文学編集部
〒108-8345東京都港区三田2-15-45
慶應義塾大学内
mitabun@muse.dti.ne.jp

 
遠藤周作 2 〔1923(大正12)年~1996(平成8)年〕

1947(昭和22)年の「三田文学」12月号に「カトリツク作家の問題」が掲載されて、遠藤周作は評論家として出発します。
翌年に卒業を控えた遠藤が、仏文科の佐藤朔に身の振り方を相談すると、
「『ものを書けばいいじゃないか』と突き放すような言い方をされた。『もの書きでは、一人前になるまで、飯が食えません』と申し上げると、『じゃあ、筆で早く飯が食えるようになればいいじゃないか』ととりつく島もなかった」
それでも鎌倉文庫の嘱託に推薦してもらい、遠藤は大学を卒業したのです。(遠藤周作「佐藤朔先生との思い出」三田文学46号

1948(昭和23)年6月。遠藤は三田文学編集部を訪ねて、編集をしていた原民喜と出会います。
当時の編集部は、神田の能楽書林という出版社にありました。
主として謡曲の本を出版し、遠藤らの大先輩にあたる丸岡明の実弟が経営をしていました。神田の、そこだけ空襲から焼け残った一角にあって、周りにも古びた家が多かったと遠藤は後に書いています。
「能楽書林の一階はうす暗い編集室と応接間とがあり、その奥に原さんが広島から上京をして住んでいた。そのように原さんに部屋を貸した丸岡明さん自身も焼け出されて二階を一時的な住居とされていたし、(中略)このような雑居は焼け野原の多い東京では珍しくはなかった」(遠藤周作「『三田文学』の青春」)

原民喜は1945(昭和20)年に広島で被爆し、翌年に上京。1947(昭和22)年に被爆体験を記した『夏の花』を「三田文学」に発表していました。
後に遠藤は原民喜についてこう書いています。
「私の青春時代の最も感じやすい三年間、毎日といってもいいほど会っていた十七歳も歳上の先輩ですが、極めて純粋な人でした。(中略)私たちなら妥協するとか、ずるく立ちまわるところを、原さんはそれができない人でした。そういう原さんが心の中にあって、自分の行動を振り返るとき、こっちの胸がちくっと痛むのです」
「原さんという人は私だけでなく、周りの多くの人に強烈な痕跡を残して行きました。あの人の百倍も強烈なのが私にとってのイエスかもしれないと思うことがあります」 遠藤には原民喜とイエスが相似形で捉えられていて、原民喜が遠藤のイエス像の一つの原点にもなっていることを示唆しているのです。(竹原陽子「イエスのような人」三田文学87号
「ぼくが、原さんのことをどんなにぼくの人生と文学にとって大事な人であるかとかんがえてゐる心情をお知り下されば、ぼくが原さんから離れるなんて御想像だになさらないでせうに」
と手紙に書くほど慕っていた遠藤は、週に一度は三田文学の編集部へ顔を出すようになります。

元「群像」の編集長で三田文学にも関わりの深い大久保房男は、当時の様子をこう振り返っています。
昭和21(1946)年1月に、戦時中休んでいた「三田文学」が復刊し、その年の10月から「紅茶会」と呼ばれるいわば文学サロンのような集まりも復活しました。
「紅茶会」では名をなした先輩たちによるスピーチが行われ、必ずその後は十数人で飲みに行ったことを大久保さんは書いています。
「『三田文学』を取りまく先輩後輩は一族のやうなもので、金の入る先輩たちは若い後輩たちを養つてくれているという感じがなくもなかつた。/そんな中で、どうしてだか、私が特別親しくなつたのは原民喜さんと遠藤周作君だつた」(大久保房男「死を予告した手紙」三田文学56号  
よく三人で夜の新宿や神田をうろついていたようです。サービス精神旺盛でよく喋る遠藤周作。物静かな原民喜。そして、後に名物編集者「鬼のオオクボ」として知られ第三の新人育ての親と言われるようになる大久保房男。
この奇妙な三人連れが夜の街を肩並べてうろつく姿を想像すると、微笑ましくも、どこか哀しい気持になってしまいます。
昭和25(1950)年、遠藤は戦後初のカトリック留学生としてフランスへ旅立ちます。原も能楽書林を出て吉祥寺の素人下宿に引っ越しました。
そしてもう三人でうろつくこともなくなりました。その翌年、原民喜は自殺してしまうのです。

遠藤は留学先のフランスで訃報を知ります。
「三田文学」を通して知り合った大切なひとを喪い、「青春時代の最も感じやすい3年間」は終わりました。

  (黒川英市)

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